3月25日、月曜日の夜。
就寝前、おいらは便座にすわってその日最後の用を足していた。
明日は有休か。さてなにしてすごそうか……。
彼女が26日に有休をとるときいて合わせてみたのだが、あいにくの雨予報。
それに前日の日曜日にデートしたばかりとあって、とくに会う約束はしなかったのである。
まあ、明日おきて決めるか……。
と、寝ぼけ眼で腰を上げたその時であった。
ピキ
腰のど真ん中に局所高圧電流。人生最大の痛み。
直後に、スポーンと腰がぬけるような感覚。
これ…あかんやつや…。
そのまま立ち上がるという選択肢はなかった。
中空での一瞬の静止のあと、おいらはゆっくり便座に腰を沈ませる。
灰になったあしたのジョーよろしくそのまま10分ほどうなだれていると、ようやく腰部の嵐がおさまってきた
……ような気がした。
おそるおそる、おいらはもういちど起立を試みる。
足の屈伸を利用して、中腰の姿勢まではなんとか持っていけた。
が、腰が言うことをききやがらない。1ミリも伸びず、まったく上体を起こせない。
おいらは御老公の御前でもないのに深くお辞儀したまま、逆に自分が御老公にでもなったような気分で足だけ動かしてなんとかトイレを出る。
助さん格さんの助けもかりず、「では参りましょうか」もなく、人生苦もありゃ苦もあるさと、長い長い廊下をすり足で進み、階段を這い上がる。
2階の自室に入り、足裏で畳をずりながら布団の前へ。
だがガチガチの身体の硬直と激痛への恐怖から、寝ることはおろか、座ることすらできない。
しばしの思案のあと、おいらはカニ歩きで布団を横切り窓のところまで移動する。
窓枠を両手でつかみ、ゆーーーーくり足を曲げて右膝をつく。
ふぅーっと大きく息を吐き、おもむろに左膝も。
畳に両膝をついてお辞儀した状態。
たぶん左側に布団があるはずなのだが、少しでもそちらに身体を向ければ即死は免れない。
さてどうしたものか。
腰を前後に動かすのはあまりにもノーフューチャーすぎるし……。
しかたなく、左方向に横向きに倒れてみる。
もちろん手をついて可能な限り落下速度をおさえながら。
ふわっと布団に着地。
ただし、垂直着地。
十
その後どうやって身体を回転させて、「十」を「Ⅰ」にしたのかは記憶にない。
記憶が飛ぶほどの激痛ってやつだ。
ゼロ回転アクセルを決めたおいらに、毛布と掛け布団をかける余力はもはや残っていなかった。
大声を出して母ちゃんを呼ぶ。
母ちゃんに布団をかけられるとき思った。
白い布を顔にかぶせられるときの死人って、こんな気分なのだろうか、と。
つづき まっさ、ぎっくり腰になる #2 「ぎっつり腰」
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