初回 8日間の日数制限内にOmiaiからLINEへ。デートへ。そして伝説へ

前回 まっさ、43歳にして初めて彼女にクリスマスプレゼントを買う


アリオ→三井アウトレットパーク→アリオ→倉敷駅


チェキのプレゼントのあと、倉敷駅へ移動することに。


「まあなにもないけど」と彼女が提案したのだ。


アリオから一歩出ると、白いものが目の前にちらついた。


雪がはらはらと落ちていた。


灰色の寒空の底に、街は沈んでいる。


そこに含まれているものは、ことごとく平板で精彩を欠いて見える。


アリオと駅舎を接続するペデストリアンデッキを行くまばらな人影も、倉敷駅の鮮やかなはずの水色の屋根も、その下で行われている右翼活動家たちの演説も。


彼女が予告したとおり、駅の構内には我々の足を止めるようものはなにもなく、あっというまに南口へ。


そのまま寒空の下に抜ける気にはならず、窓際のベンチにならんで腰をおろす。


窓の外で勢いを増す雪。ぞっとしない風景。


しばらくして、おいらが静寂を破る。
努めてさりげなく。


「ねえ」


「ん?」


「あのさ……ちゅーしたくなった」


「え、今?」と彼女は笑う。


「うん」


「急にしたくなったの?」


「う…うん」


「どこでするつもり?」


「ん…まあ車ん中でもいいし」


「まあいいけど。でも次どこ行く?」


「そうだなあ…あら、やんでるよ雪! いつのまに!」


「ほんとだ!」


「これで美観地区が現実的な候補になったな」


「……そうだね」


我々はベンチから立ち上がってアリオに戻り、彼女の車で出発した。


おいらの車をあとに残して。


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アリオ→三井アウトレットパーク→アリオ→倉敷駅→美観地区→???


倉敷本通り商店街横の駐車場には、数台分しか空きがなかった。


彼女がシートベルトを外したところで、おいらが言う。


「さすがにまわりにこれだけ人がいるとキスは無理…だよね?」


「人もいるし、まだ明るいじゃん」と笑う彼女。


商店街を抜け、美観地区を廻り、喫茶エル・グレコで紅茶。


16時半すぎにエル・グレコを出る。


「夕方には帰りたい」と彼女が美観地区にむかう途中で
言っていたのだ。


思っていたよりも、外はまだ明るい。


車内に戻るとふたたびキスを提案するおいら。


「本気だったの?」と彼女は困ったように笑う。


「もちろん!」とおいらは努めて陽気に言う。「でも人がいるな。うしろの車から人が降りたらしよう」


うしろの車の家族連れは非常にもたもたしていた。


車から降りるのも、駐車場を出るのも、まるでコマ送りでも見ているような気分だった。


「では」とおいら。


「うん…」、彼女が運転席からこちらを向く。


助手席から身を寄せていくと、彼女の顔が右に傾いていく。


予想が外れたおいらは、接触直前に逆方向へ顔を軌道修正。


キス。


唇と唇が軽く触れ合うだけのキス。


彼女からぎこちなさと緊張感が伝わってくる。


おいらは2秒でキスを切り上げる。


50センチほどの間合い。


「満足した?」と彼女が伏し目がちに笑う。


「もう一回だけ」


2回目のキスも1回目とほぼ同じ、宙をふわふわ舞う雪のようなキス。


「これで満足した?」


足りない。


とは言えなかった。


ただ、おいらの内側で、ちょっとした隙間が埋まるような感覚があったのも事実だ。


おいらはうなずいて、「うん。素敵な感覚だった。すごく嬉しい」


「ならよかった」とはにかみながら、彼女はおいらから視線をそらせ、シートベルトを装着する。


というわけで、3回目のデートの終着点は「キス」であった。


つづき クリスマスデート:ホキ美術館名品展Ⅱ