初回 りんさん(38) #1 写真要求は通ったし可愛かったけれど

前回 りんさん(38) #6 デート延期・幻の車上人


助産師・りんさん(38)
  • 11/4、ペアーズでおいらにいいね
  • プライベートモードで一本釣り→モード解除の底引き網漁
  • 自己紹介文に追記・プロフ写真追加を頻繁に
  • 11/6、写真要求に応じる。おいら好みの顔
  • 11/9、デート承諾
  • 11/15、壁打ちみたいな、まったく手応えのないデート
  • 11/18、2回目のデート承諾
  • 11/24、りんさんからデート延期の申し出

◆11月29日(水)◆

その倉敷の焼き鳥屋に行くもっともシンプルなルートは、国道2号の岡山バイパス(通称:2号線バイパス)を利用するルートだった。



だが平日の18時といえば、帰宅ラッシュ。


この時間の2号線バイパスはいつも大渋滞。



そこでGoogleマップの「交通状況を反映した現時点の最速ルート」を選択。


19時半約束のところを、19時前には到着できるらしい(バイパスルートより15分ほど早い)。


18時5分、カーエアコンの吹き出し口に設置したホルダーにスマホをセットする。


ライトを点け、ギアをドライブに入れる。


それからハンドブレーキを下ろす。いつもより早い心臓の鼓動を感じながら。


1回目のデートで脈がなさそうだったりんさんとの2回目のデート。


デートの練習台になってもらうつもりで楽にいきましょ。


そう思ってた。


でもじつは心の奥底では「失敗したくない」「できるなら付き合いたい」という気持ちがあったのかもしれない。


だが、そんな緊張もGoogle先生のとびきりZENKAIアドベンチャーでぶっ飛んでしまった。


通ったことのない道ばかりなのは当たり前。


まわりが田んぼの道、超狭い生活道路、激しくクランクしてる「直進道路」、街頭まばらすぎて真っ暗な道、そしてナッツの香りエイリアンが出てきそうな道なき道。



神龍の背中にでものったみたいなジェットコースター・ドライブ!


結局店についたのは19時20分。


見覚えのあるSUVが駐車しようとしていた。


ちょうどそのとなりのスペースがあいていたので、メルセデス・フィットをすべりこませる。


10秒くらい車内から手をふると、ようやく気づいてふりかえしてくれる。


ヨタヨタと車をおり、連れ立って入店。奥の座敷へ。


予約条件がコースだったので、店主が気まぐれでチョイスした串が時間をおいて1本ずつ、計7本やってくる。


りんさんはホット烏龍茶、おいらはアサヒスーパードライゼロで乾杯。


「寒いね」とか「今日は仕事だった?」とか「どんなルートで来たか」とか、とりとめもなく会話をスタート。


つづいて、「たしかこうだったよね?」と前回デートの会話内容をおさらい。



場が温まったところで、用意していた質問をする。


今回は恋愛の話を軸にして距離をちぢめる魂胆だったのだ。


「前回、好きな男性のタイプを聞きました。穏やかな人、つまらない嘘をつかない人、あとなんだっけ?」


「よく覚えてますね!」


「でもそれって、パートナー選びの条件ではあっても、好きになる条件ではないですよね」


「たしかに」


「ドキドキしたり、キュンとしたりする条件ではない。どんなタイプの男性にトキメキますか?」


「うーん。そういう意味ではわたし、タイプってないんですよね」


「好きな男性芸能人とかも?」


「ないですね~。あまり芸能人のファンになったことないんです」


「こんな顔が好きとかも?」


「うーん、たぶんないと思います」


「ドキッとする男性の仕草もないですか? ほらよく言うじゃないですか。車をバックさせるときに助手席のシートをつかむ仕草とか」


「たしかに理解はできるんですけど、ドキっとまではしないかも」


「じゃあ今まで好きになった人に共通点はありませんか?」


「うーん、どうでしょう……でもたぶん、よく会う人じゃないかな」


「よく会う人?」


「こう……なんどもなんども会っていくうちに気づいたら好きになってるというか。自分の領域にひんぱんに入ってくる人というか……」


「一目惚れはしない?」


 「そうですね。しないと思います」


「うーん……ほかにはないですか?」


「うーん…そうですねぇ…むずかしいなぁ。逆にどうですか? まささんはどんな女性を好きになりがちですか?」


「僕はね、チョロいですよ。やさしくしてくれたら、すぐに好きになっちゃう」


「あはは! チョロいですね! だまされやすいタイプ!」


その流れで、マッチングアプリで出会った詐欺師とのエピソードを交換。


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「へえ、じゃあ偶然入った喫茶店でそのセミナー勧誘男がべつの女性を勧誘してるところを目撃したんですね」


「そうなんです。それでアプリ確認してみたらその男がまた登録してて。運営に通報しようとも思ったんですが、確証もないので結局しなかったんですけど」


「なるほどね、ぼくとちがって実物と会ってデートしたってなかなかの経験ですね! それはそうと好きになる男性の特徴に話をもどしましょう。笑顔が素敵な男性はどうでしょう?」


「それはもちろんいいと思いますよ」


「でもその口ぶりじゃあ好きにまではならなそうですね、笑顔が素敵なだけじゃあ」


「あはは」


「この質問でりんさんのハートを射止めるヒントを得ようと思ってたのですが、なかなかむずかしそうですね!」


「うふふ」


「マッチングアプリをはじめてみてどうですか? 刺激があって毎日が楽しくなったりしてますか?」


「それが……疲れてるんですよね」


「何故ゆえにまた?」


「わたし、アプリのやりすぎだと思うんです。短期集中でいこうとはじめたので」


「ほうほう」


「これ…言っていいものかどうかわからないんですけど、わたし15人とやりとりしてるんです」


「15人!? それはたしかに多いですね」


「1週間に1通のペースでおくってくるような人もいるので、全員とまいにちやりとりしてるわけじゃないんですけど、それでもたいへんです。それに会ってみないとわからないと思ってるので、時間を見つけてけっこう会ったりもしてるので」


「まあそりゃあつかれますよね。ぼくも7、8人やりとりしてたことありますが、それでもたいへんでしたもん。名前間違えたりとかね」


「あはは。さすがに名前は間違えないですけど、『
この人にこの話したっけ?』ってメッセージをさかのぼって確認したりして」


「復習ね」


「そうそう」


「で、いろいろな人とやりとりしてみてどうでした?」


「うーん、1回会った人、1回で終わった人、2回会った人、やりとりだけの人、LINEしてる人、いろいろいるんですが……意外とみんないい人たちばかりなので驚いてます」


「意外とってことは、最初はそうは思ってなかった?」


「最初はすごく警戒していました。つごうよく利用されてポイされたりとかされるんじゃないかと」


「たしかに、プロフィールやメッセージからそういう警戒心みたいなの、そこはかとなく感じてました、じつをいうと」


「あはは。やはりそうでしたか。なのでわたしプライベートモードでやってるんです」


「プライベートモードってなんですか?」


「ようするに、プロフィールをみんなに公開するんじゃなくて、自分からいいねした人だけ見られる状態にできるんです」


「それってお金かかるんですよね?」


「そうなんですよ~。けっこうかかるんです! あと数日で期限がくるんですが、もうプライベートモードじゃなくてもいいかなと」


「プロフ全公開でもいっかと。なにかキッカケがあったんですか、気持ちの変化の?」


「最初はいろいろな人にプロフィールを見られたくないって思ってたんです。60歳とか70歳の人からいいねが来たりするので、それもどうかなと」


「70歳!? ハハッ! それはなかなかですね!」


「そうなんです。で、プライベートモードにしたんですが、じつはときどき解除もしてたんです。30分だけとか」


「ほうほう」


「でもそのわずか30分のあいだにいいねがバタバタっときて。で、怖くなってまたプライベートにもどして、こんどは夜勤の休憩中に15分だけ解除してみたりして」


「夜中でもいいね来ますか?」


「それがね、来るんですよ!」


「ハハッ! みんなどうしちまってるんだって感じですよね」


「まぁ同業者かもしれないですが、でもお年寄りもまじってたりなんかして。それでまたプロフィールを閉じて、また開いてをくり返してて」


「それでもうプライベートモードにしなくてもいいかってなったと」


「そう、結局、いいと思った人にいいね返して、そうじゃない人には返さないだけなので、同じことかなっって」


「選別する手間が多少かかるくらいのもんですもんね」


「はい。それに会った人たちがみんないい人たちばかりなので、そう警戒することもないのかなと。見られてもだいじょうぶじゃないかと」


「なるほどね」


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とまあ、終始、けっこう楽しく和やかに話せたのよ。


でも、距離がちぢまった感じはしない。平行線の夜って感じ。


やっぱりりんさんの腰が引けてる印象が強くってね。


それが、アプリで男性に会うことへの警戒心なのか、それともおいら個人への警戒心なのか、はたまたおいらに興味がわかないだけなのかはわからないけども。


今回のデートでの進展らしい進展は、LINE接続のみ。


なんとなく、長期戦になりそうな予感。