うしろの荷台にみかん箱やりんご箱をくくりつけたどこぞのアジア系自転車集団をはじめとする、インターナショナルなセレブがつどうスーパーマーケットがある。

それは「ディオ」ッ!!

そんなディオで今日、母ちゃんと買い物してたら、ふいに店内放送が流れた。

「岡山***あ **ー**のお車でお越しのお客様、お伝えしたいことがありますので、至急***までお越しください」

これはトラブルの予感。車のオーナーさんご愁傷さま。

火事が対岸でよかった。おいらはこうして安全に杏仁豆腐を買って、安全に家で食するのだ。

な~んて余裕ぶっこいて買い物すませて店の駐車場を進んでたら、おいらのメルセデス・フィットの横に制服姿の警官が仁王立ちしてるではあ~りませんか。

くわばらくわばら。

「あ、この車の持ち主さんですか?」

そそくさと警官の前を横切ってフィットのドアを開けようとしたら警官に声をかけられる。

「ええ、まあ、そうですが?」

「さっき店内放送で呼び出ししてもらったんですが出てこられなかったので、さっき自宅に電話させてもらったんですよ」

「自宅?」

「えーっとね、車のナンバーから照会かけさせてもらったんですよ。だって店から出てこられないから」

「ああ、なるほど」

「でも留守番電話でした。家に戻られたら着信が残ってるはずですが、それはウチからなんでご安心ください。怪しい電話じゃありませんから」

「はあ。それで?」

「それでですね、あちらの方が運転する車があなたの車に当ててしまったそうです。ちょうどこのあたり」

そう言って警官がフロントバンパーの右あたりを指さす。

たしかに白い車体に、なにかがこすったような黒いあとが筋になって残っている。

そこで、50がらみの男性とその奥さんが登場。

ほんとうにもうしわけなさそうに平身低頭、なんどもなんども頭を下げて謝ってくる。

「なるほど。わかりました。だいじょうぶですよ。そんな気になさらずとも、これくらい」

それから警官に免許証と車検証と自賠責保険証明書を求められた。

警官はそれらを見ながらメモをとる。

「お勤め先は?」

「****です」

「ああ。ということは会社員でいいですかね」

「いいです」

「あとケータイの電話番号もお願いします」

おいらは電話番号を言った。

「ありがとうごうございます。ではこの紙を」

そう言って警官がおいらと男性に渡したのは、名刺サイズの青い紙だった。

「一番上に書いてある番号はこの交通事故の取扱番号になります。警察がたしかに現場を確認したというあかしみたいなものですな。あとで保険会社とのやりとりで必要になるかもしれませんのでだいじにとっておいてください。では、我々はこれで。あとは当事者同士でお願いします。きちんと連絡先を交換しておいてくださいね」

わたくしはこういうものです、と男性が名刺を渡してきた。

「株式会社*** 取締役 五条 悟」

ヒューーー!

おいらは脳内でバーチャル・ホイッスルを鳴らしながら名刺の持ち合わせがないことをわびる。

「いえいえ。それではお名前をお願いできますか?」

「**まさゆき。『
まさ』は真実の真、『ゆき』は幸福の幸」

説明しながら、いつものようにおいらは気まずさを覚える。だって「真実(ほんとう)の幸せ」だぜ? このしょっぼい人生で? 皮肉すぎるだろ?

奥さんが横でメモをとっている。すでに電話番号はメモされていた。おいらが警官に話すときにメモしたのだ。さすが取締役の奥さん、やるう!

おいらは事故を起こした夫婦に最後までやさしく接した。こんな展開を期待して。

「真幸くん、ぜひうちに来て力を貸してくれないかな? 君ほどできた人間を私は見たことがないよ。ぜひともうちに新しい風を吹き込んでほしい。まずは課長待遇で年収800万円でどうだ?」

家にもどるとさっそく、おいらと母ちゃんは、その会社をググった。

従業員50名ほどのちいさな会社だった。

年収800万円はうたかたの夢と消えた。

つーか、よくよく考えたら、ググるまでもなかったのだ。

だって事故があった駐車場の店は、「ディオ」なのだから。

後ろの荷台にみかん箱やりんご箱をくくりつけたどこぞのアジア系自転車集団がピットインするような、インターナショナルなセレブ御用達の「ディオ」なのだから。。。