初回 「知的」な美目元のネルさん(41) #1 長文だとか超スピードだとか
前回 ボディタッチ魔の彼女

3回目のデートプランは、あえて余白を残す作戦。

猫カフェ→ラーメン。

決めたのは、ここまで。ラーメンのあとは出たとこ勝負。

そうすることで、「次、どうする?」のたびに「うーん……じゃあ、わたしのウチ、来る? あまり可愛い部屋じゃないけれど」のチャンスが生まれるのだ!

各工程でちょいちょいスキンシップを入れたいところ。

「まーくん、そーいうこと期待してるのかな?」と彼女の意識をそっち方向に向けさせるのだ。


猫カフェ

スキンシップなし。そりゃまあ、猫とのスキンシップが目的だものね。女性店主の息子(5歳くらい)にせがまれ、3人でポケモン双六をするという謎展開に。

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猫カフェ→ラーメン

スキンシップなし。ラーメンなのでそんな雰囲気にはなかなかね。結婚に関する話題についてわりにがっつり話し合う。

「次、どうする?」

「うーん、この近くに市場があるみたい。まーくん、知ってる?」

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猫カフェ→ラーメン→市場

アーケードの下で手つなぎ成功!

「次、どうする?」

「うーん、ドライブとかどう? まーくんおすすめのドライブコースがあれば」

「そうだなあ……道の駅巡りでもするか」

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猫カフェ→ラーメン→市場→道の駅1

手つなぎ継続。見るだけで何も買わず。

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猫カフェ→ラーメン→市場→道の駅1→道中の車中

「飲む?」と助手席の彼女から飲みかけのミネラルウォーターのボトルを渡される。当然飲む。

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猫カフェ→ラーメン→市場→道の駅1→道の駅2

手つなぎ継続。見るだけで何も買わず。

「次、どうする?」

「うーん……どうしよっか」

「汗かいたし、けっこう歩きまわったし、カフェでゆっくりしようぜ」

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猫カフェ→ラーメン→市場→道の駅1→道の駅2→ネネ・グース・カフェ

手つなぎ継続。おいら、テーブルごしに彼女の手をこねくり回す。

「まーくんってこーゆースキンシップとかすっごい手慣れてるよね? いったいこれまで何人の女性とつきあってきたの?」

「いやいや! 手慣れてなんかないよ! つきあった人数は少なくて……ええと、たぶん3人(せこい嘘発動!)」

「へー。そのうち、アプリの女性は何人?」

「ふ、2人……かな」

「へー」

「だから手慣れてなんかないよ。君がとっても素敵だからこうしてるだけさ」

「ありがとう。でもサラッと素敵とか言えちゃうとこも手慣れてる感じがするんだよね~」

「思ったとおりのことを素直に口にだしたまでさ……ところで次、どうする?」

「んー……ちょっと失礼」

彼女はおいらの手からするりと逃れると、スマホをバッグからとりだした。

目を細めながら操作すること30秒、「はい」とテーブルごしに画面を見せてくる。

Google map。

「ねーまーくん、ここってどんなとこ? 公園っぽいけど」

「公園であってる。新岡山港の公園。そんなに広くはない。近くの船着き場からは小豆島行きのフェリーが発着してる」

「行ってみたい」

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猫カフェ→ラーメン→市場→道の駅1→道の駅2→ネネ・グース・カフェ→新岡山港 市民の森

手つなぎ継続。

夕刻の岸壁の道。

「そーいえば、まーくんの匂い嗅いでもいーい?」

彼女はカフェで体臭の話をしていた。彼女がマッチングアプリで出会った男性の一人が凄まじい体臭の持ち主で、いい人だったけれどお断りしたと。で、「あとでまーくんの匂いも嗅がせてね」と。

「今? まあいいけど、ほら汗もかいてるし、たぶん臭いよ」

それでも彼女はぐっと体を寄せてくる。

むぎゅっと胸が押しあてられる。

「くんくん。うん、大丈夫。匂いしないよ」

「そ、そう? たまたまだな。でも安心したわ」

並んで海を見る。

魚がときどきジャンプする。小さな無人島の波打ち際で鷺(サギ)みたいな大きな白い鳥が1羽、黄昏れている。少し離れたところから、もう1羽が海に飛び込む。右側の船着き場から汽笛が鳴り、フェリーが緩慢な動作で出港する。左側からは、船着き場を目指すもう1隻のフェリー。後者は島の向こうに隠れて見えなくなるが、やがて右端から姿を表す。すれちがうフェリー。岸壁の割れ目からわらわらと出てくる小さな蟹たちが彼女を後ずさりさせる。

その間、ことあるごとに顔を見合わせ、じっと見つめあう我々。

顔の距離が、とても近い。

キスの予感が立ち込めていた。

でも、背後の公園の芝生には、おっさんが一人。

何をするでもなく突っ立って、こっちのほうを見ている。

見つめ合う、振り返る、おっさん。

見つめ合う、振り返る、おっさん。

見つめ合う、振り返る、おっさん。

見つめ合う、振り返る、おっさん……

いない!

「あのさ、キスしてもいいかな?」

「そこわざわざ確認するのね! いいよもちろん!」

そう言って彼女は笑いながらこちらに向き直る。

両腕を広げ、そのまま体を預けてくる。

おいらはやわらかい衝撃をうけとめてから腕を回す。

近距離でぶつかる視線。

下から覗き込む目がそっと閉じられる。

おいらは身をかがめる。

重なる唇。

思ってた5倍は長く深いキスだった。

「……ネルちゃん」

「なあに?」

「このあとネルちゃんち行ってもいい?」

「だぁめ。また今度ね」

そう言って彼女はくすくす笑う。

作戦失敗!

いやいや、十分成功じゃないか。これは。

あと、今日わかったことがある。

おいら、彼女にぞっこん惚れちまってる。

つづき 彼女からLINEが来ない!既読がつかない!