じつは、Omiaiがホームラン級に空振ったときの保険として、ペアーズ君は登録抹消せずにおいた。
命拾いしたペアーズ君は、いつでも交代できるよう、ベンチを温めながらスタンバイしていた。
まっさ監督はまっさ監督で、根城ならぬ寝城にしている球場で、みずからいいねの球拾いに精を出していた。
監督は拾ったボールを山なりに放る。ペアーズ君は座ったまま、かかえているカゴをさしだす。ゴール。
まず、ペアーズの無料会員にもどった翌日に、月一回の配給(30いいね)。
そこに日々のログインボーナスをひょいひょい上乗せしていく。
で、Omiai君がぽーんと打ち上げるフライ、やっぱり誰もキャッチしないじゃん、ことごとく「お見合い」じゃんってあきらめムードが濃厚になったそのときだった。
監督が立ち上がった。
選手の交代をお知らせします。
4番Omiai君に代わりまして、ペアーズ君。バッターはペアーズ君!
ワーーーー!!(球場に轟く大歓声)。
観衆が見守る中、かごの球を粛々とフライに変えていくペアーズ君。
夏だと言うのに、生っ白い顔には汗一つかいていない。
あっというまに、カラになるかご。
しーんと静まる球場。
【結果】
キャッチした乙女、一人。
逆にまっさ監督に球を送った乙女、一人。
マッチング、二人。
たったの、二人。
険しい表情で腕組みするダグアウトの監督。どうしたものか。
思案の末、アナリストを手招きする。
ひそひそ耳打ちするアナリスト。
データ分析で判明したのは、二人には共通点が多いということ。
まず年齢が41歳。
つぎに顔の露出が目もとより上のみ。
そして、きれいな目もと。
もちろん違いもある。
一人は知的な目もとをしているのにたいし、もうひとりは活発そうな目元をしている。
「知的」は美術館が好きだが、「活発」は海外旅行とリゾートが好き。
当のまっさ監督はというと、きれいな目もとは言うまでなく好きだが、美術館や海外旅行、リゾートは言うまでもなく好きじゃない。
知的な乙女も好きだし活発な乙女も好きだが、交際相手として41歳は、うーーーんと腕組み。
一方、監督のサインに対する乙女たちの反応だが、「活発」はすぐに返事をよこし、いいねしてきた「知的」は沈黙をキープ。
監督は腕組みしたまま、ベンチに横になる。
目が覚めたのは夜中の一時だった。
スマホの通知で、遅まきながら36歳の乙女が捕球したことを知る。ペアーズのやつもバカ高いフライを打ち上げたものだ。
監督、スマホで初回サインを送り、入眠。
朝日で目覚め、7時半に球場を出て、もうひとつの職場へ。
9時前に、通知。
「知的」から返事あり、と。
職場から球場に戻ってすぐ、通知。
「36歳」から返事あり、と。
監督が動く。
睡眠中でさえ固めていた腕組みをついにほどくと、クレジットカード君を伝令に出す。
クレジットカード君が、バッターボックスのペアーズ君に何かを手渡し、背中をぽんと叩く。
二カッと笑うペアーズ君。
「頼むぞ、ペアーズ!」手でメガホンを作り、監督はゲキを飛ばした。
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