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ゆうべ、
TORIBUってお店でまっささんとデートした。


まっささんが提案してきたお店はちょっとがやがやしてるし(まぁ嫌いではないんだけれど)、せっかくのクリスマスだから、オシャレなTORIBUをわたしが提案したの。


19:00に現地集合。わたしが勤務してる大学は店からほど近く、仕事が定時に終わったので、残業してる庶務課の同僚とおしゃべりして時間をつぶした。仕事納めの日だから、同僚もにこやかだ。


トイレの鏡の前で身仕舞いしてバスに乗る。


ちょうど岡山駅についたとき、まっささんからメッセージがくる。


「着きました。ビルの前で待ってますね~」


わたしは岡山駅にいることをつげて、店に向かって歩きだした。桃太郎通りも西川緑道公園も人でいっぱいだった。カップルの姿もちらほら見かける。


あっ、今すれ違ったひと、ちょっと渡部篤郎みたいでかっこいいな。すらっと細身で、スーツが似合ってて、枯れ具合もわたし好み。


そういえばまっささんって体型が「ぽっちゃり」だったよね。


この角を曲がればお店っと。


えっ!?


ひょっとしてあの猫背の太った人がまっささん!?


「ぽっちゃり」の範疇こえてるじゃん。。。


まっささんがこちらを見たので、仕方なくわたしは近づいていって笑顔で挨拶した。


「いやあ、ちょっと寒さをなめてました笑 薄着で来たことを後悔してます。もうひざががくがくで。ささ、立ち話もなんですから上がりましょう」


エレベーターの扉が開くと、オシャレな空間が広がった。わたしはちょっとだけテンションがあがる。


「予約してたまっさですけど」とまっささんが給仕の女の子に声をかけている。なんか張り切りすぎてていいとこ見せようとしてる感がすごい。


わたしたちは一番手前のソファ席に通された。


「あ、どっちに座りますか?」


「どっちでも大丈夫ですよ」



「よっこいしょっと。初めて会うのがクリスマスってなんかすごいですよね笑」


「ほんとそうですよね笑」


わたしはコートを脱いでソファーの横に置いた。正面をむくと、まっささんが値踏みするような目でこちらを見ていた。とくに胸のあたりに視線を感じる。


給仕の女の子がメニューをもってきたので、まっささんは生ビールを、わたしはサワーを注文する。


どうやらまっささんは、この店で一番高いコースを頼んだみたいだった。いちおう感激しておこうかしら。


「わあコース料理頼んでくれたんですね! ありがとうございます」


「いえいえ。お酒はサワーがお好きなんですか? ビールは飲まれないのかな?」


「そうですね、サワーも好きだしハイボールも好きです。ビールは味が苦手なんです」


「お酒はよく飲まれそうですね、アプリのプロフィールを拝見するに笑」


「そうですね!笑 コロナ前はよく飲みに行ってましたけど今は家で晩酌してます」


すぐにお酒が運ばれてきて、わたしたちはグラスを合わせた。ビールをごくごく飲むまさゆきさんは髭をそったばかりに見えた。


「まさゆきさんは、お仕事終わっていったんお家に帰って来られたんですか?」


「そうですそうです。家は職場からすぐ近くなので。歯並びさんもお家寄られてきたんですか?」


「いえ、職場から直接来ましたよ」


「へえ、職場はここから近いのですか?」


「そうなんです。大学の職員をしてます。家はずっと南のほうなんですけどね」


「あ、奇遇! 僕も南のほうなんです。ずっと南のほうです笑」


「あの、中学校はどこですか?」


「◯◯中学ですけど」


「私の先輩じゃないですか!笑 こんなことがあるなんて笑」



「まじっすか?笑 すごい偶然もあるもんだ」



わたしたちは、S先生の話をした。その中学の体育教師であり、バスケットボール部のわたしの恩師でもある。


「S先生のシゴキはすごかったですよね。体育のとき50分間全力ダッシュやらされましたもん笑 ひとりでも手を抜いてたら連帯責任で全員走らされるんですよ」


「そうそう! 連帯責任!」


「ふつうに生徒殴ってましたよね笑 むっちゃ怖かった笑」


「二年前に友達の結婚式で会いましたけど、すっかり丸くなってましたよ笑」


だいぶ固さがとれてきたので、いろいろ訊いてみた。


「ペアーズでほかに会ってらっしゃるんですか?」


「ちょうど10日ほど前に会いましたよ」


「どうでしたか?」



「いや、それがね、毛玉だらけの服で来たんですよ笑 それでテンションがすっかり下がってしまいまして笑」


わたしがおどけた感じで自分の服に毛玉がついてないか確認すると、まっささんはがははと笑っていた。


まっささんが元彼女と別れた理由も訊いてみたけれど、ちょっと要領を得ない答えが返ってきてよくわからなかった。


わたしがペアーズであった男性たちの話をしている流れで、元カレの話になった。15歳離れていることを話すと、まさゆきさんは食いついてきた。


「差し支えなければ、元カレと別れた理由をきいてみたいです」


「彼が県外に転勤することになったんです。私はついていって結婚もしたいと思ってたんですけど、彼からはそういう話がぜんぜんなかったので別れました。バツイチの人だったんですけどね」


「いちど結婚して、それがうまくいかなかったからもういいやって感じだったのかもしれませんね」


「そうかもしれませんね~」


「たしかに我々くらいの年齢になると、さきざきのことも見据えていかないといけませんものね。あまり時間がないというか」


「そうなんですよね」


知ったふうなことを言ってくるので適当に相槌うってたら、わたしの結婚観について根掘り葉掘り訊いてきた。


曖昧な返事をするとつぎの質問が飛んでくるので、めんどうだから結婚願望はあると言っておいた。ただし、あなたとはないですけどね。


それから就職氷河期とこれまでのキャリアについて話した。まさゆきさんはこちらを戦友かなにかみたいに見ているようだった。「同志」という言葉まで使ってきた。それをきいてわたしは、なんだか薄気味悪くなってきた。


長い2時間だった。


まさゆきさんが会計をもった。わたしは、借りをつくりたくなかったのでいくらか払おうとしたが、断られてしまった。


「つぎのデートのときに払ってください。もちろんリーズナブルなお店にしときますのでご心配なく笑」


次は、もうないんですけど。


まっささんは、帰りのタクシーでLINE交換を打診してきた。いま断るとわたしの意図が伝わるといけないので、おとなしく応じた。


家の近くでタクシーをとめると、運賃の半分をなんとかまさゆきさんに握らせて、わたしは降りた。


「今日はありがとうございました!」


車内から馬鹿みたいに手を振ってるまっささんに、手を振り返した。


これが最後だと思うと、自然と笑顔になれた。


さようなら、まっささん。


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氷のように冷たい女だと
ささやく声がしても

Don't worry!


I'm just playing games


I know that's plastic love


Dance to the plastic beat


Another morning comes...


竹内まりや 「Plastic Love」

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