
昔々、といってもせいぜい二十日ぐらい前のことだけれど、僕はあるマッチングアプリをはじめようとしていた。理由は忘れたが、忘れる程度の理由だった。
僕は三九で、来年に厄年を控えていた。
マッチングアプリのことなんて何ひとつ知らなかったし、出会い系を使うのも初めてだったので、知り合いの女の子が心配してペアーズというアプリをみつけてきてくれた。
右手の人差し指のないその女の子は、とても器用に中指をあやつってペアーズの使い方を教えてくれた。
彼女は教えながら、ときどき僕の腕に体を寄せた。白のニットセーターの布地をとおして、僕は彼女の息づかいをかすかに感じることができた。
彼女の乳房は見れば見るほど異常に大きいように思えはじめた。きっとゴールデンゲート橋のワイヤ・ロープのようなブラジャーを使っているのだろう。
彼女は僕の視線をたどり、それから僕の下半身に目をうつした。
「勃○しているかということなら、してるよ、もちろん」と僕は言った。
「ねえ、そのもちろんっていうのやめてくれる?」
「いいよ、やめる」
「そういうのってつらい?」
「考えようによってはね」
「出してあげようか?」
「ねえ、君はわかっていない」
「じゃあやめた」
「ねえ」
「なあに?」
「やってほしい」
「いいわよ」
「その、中指だけを使って」
その余計なひとことで、僕のスマート・フォンは致命的に損なわれてしまったのだ。
やれやれ。
コメント
コメント一覧 (4)
まっさ
が
しました
来年はもっと面白いプログを期待しているのであーる。
(〃艸〃)
まっさ
が
しました